保証意思宣明公正証書
第1 初めに
2017年の民法の大改正により、事業に係る債務についての保証契約の特則が創設されました(※参考条文:民法465条の6乃至同法465条の10)。
本記事では、保証意思宣明公正証書の作成が必要となる場合やその作成方法等についてまとめています。
第2 民法上の規定の内容
事業に係る債務についての保証契約の特則について、簡単にどういう決まりかというと、
①事業に係る債務について個人保証する場合には公正証書を作成する必要がある(※適用除外あり)
②事業に係る債務について個人保証する保証人に対しては,主たる債務者の財産状況等について情報の提供義務がある
ということです。
①の公正証書のことを保証意思宣明公正証書と呼びます。
本条文ができた趣旨は、事業に係る債務は金額が莫大になりがちであるから、これを保証する人がその内容について、きちんと理解せず,主たる債務者の財産状況等も把握していない場合に生じる問題(保証人の生活破綻など)を避けるために公証人によるチェックを受けましょう、ということです。
第3 規定に違反した場合
まず、保証意思宣明公正証書を作成しなければならないにもかかわらず、これをしなかった場合当該保証契約は無効となります(民法465条の6Ⅰ)。
次に、主たる債務者の情報提供義務を怠った場合、保証人は保証契約の取り消しをすることができます(民法465条の10Ⅱ)。
第4 保証意思宣明公正証書が必要となる場合
法は、「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約」(民法465条の6Ⅰ)について、保証意思宣明公正証書の作成が必要である旨規定しています。
ここで、「事業のために負担した貸金等債務」とは何かについて見てみましょう。
まず、「事業」とは、一定の目的を持ってされる同種の行為の反復継続的遂行を指し、営利性があることを要しません。
次に、「事業のために負担した貸金等債務」とは「金銭の貸渡,または手形の割引を受けることによって負担する債務(465条の3Ⅰ)」のことを指し、売買代金,請負工事代金等は含みません。
ここで、準消費貸借契約が、「事業のために負担した貸金等債務」に当たるのかについては検討が必要です。
なぜなら、準消費貸借契約は既存の債務を前提に成立するものであり,その発生原因はさまざまであるからです。
結論としては、既存の債務と準消費貸借契約に基づく債務は実質的に同一と解されているため,既存債務が「事業のために負担した貸金等債務」である場合は、保証意思宣明公正証書が存在しなければ無効となるという性質も同一に有していると考えられます。
第5 適用除外
保証意思宣明公正証書作成について適用除外とされているのは「法人,経営者保証、主債務者法人の総議決権の過半数を有する者またはこれに準ずる者、主債務者個人の共同事業者、主債務者個人が行う事業に現に従事する主債務者の配偶者」(465条の6Ⅲ,465条の9各項)です。
これらの者については、保証意思宣明公正証書の作成という規制がなくとも、主債務者の事業の内容や財務状況等を把握することが比較的容易であることから、規制の趣旨が及ばない者であると考えられ,適用が除外されたものと思われます。
第6 保証意思宣明公正証書の作成方法
保証意思宣明公正証書は公証役場において作成します。
公証役場において、公証人は,保証人になろうとするものが主たる債務の内容がどんなもので,保証契約の締結によってどのようなリスクが存在するかをきちんと理解しているかを確認するということになります。
そのため、保証意思宣明公正証書を作成する場合、当然ながら、保証人となる者、本人が公証役場に出向く必要があり、公証人から①主たる債務の債権者と債務者、②主たる債務の元本と従たるもの(利息、違約金、損害賠償など)についての定めの有無及びその内容、③主たる債務者がその債務を履行しないときにはその債務の全額について履行する意思を有していることなどを確認され、保証人がこれに直接答える必要があります。
他にも、保証債務を履行できなかった場合に差し押さえを受ける可能性があること、連帯保証の場合には、検索・催告の抗弁権が使えないこと等についても確認をされます。
これらの内容につき確認ができた場合には、保証意思宣明公正証書の作成となり、保証契約を締結することができます(公正証書の作成から1か月以内(民法465条の6Ⅰ))。
第7 まとめ
以上、保証意思宣明公正証書作成の実務について記載をしました。
保証契約と一口に言っても、その内容は様々であり、どのような場合に保証意思宣明公正証書の作成が必要かについては検討が必要な場合もあります。
公証役場における保証意思宣明公正証書の作成自体は、保証人本人が行くことで足りますが、その事前準備には相当な労力を要するものです。
弊所では、ご依頼に基づいて、保証契約の内容の検討から保証意思宣明公正証書の作成に至るまでのすべての段階で総合的なサポートをさせていただくことで、依頼人の手間を取らせることなくスムーズな契約締結を行うことができます。
保証契約につき、ご不安等がある方、内容のチェックをしてほしいという方はぜひ一度弊所にご相談いただけますと幸いです。