相続放棄

「相続放棄」といえば、皆さん一度は聞いたことのある言葉だと思います。
近年,相続放棄を申請する人が増えているそうです。
以下は裁判所の「司法統計年報(https://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search)」の数値です。実際にどのくらい1年間で相続放棄の申請が受理されているかを見てみましょう。

「司法統計 年報」
平成21年       15万6000件/年
平成23年       16万6000件/年
平成27年       18万9000件/年
平成31年(令和元年) 22万5000件/年

数字で見ると、確かに年々相続放棄をする人が増えていることがわかりますね。
では、このよく耳にする相続放棄とは、実際どのような人がする手続きなのでしょうか。
そして、どういったことに気を付けて、何をすればいいのでしょうか。

ここからもう少し詳しくご説明していこうと思います。

最初に、相続放棄をする場合というのは、どんな時を思い出しますでしょうか?
きっと一番に思いつくのは、亡くなった方に「借金」があるときではないでしょうか。
そもそも相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)にマイナスの財産が多く残ってしまっている場合に、相続人が「一切合切もらいません」とする手続きです。

ただし、ここで気を付けていただきたいことがあります。

●相続したいものとしたくないものを分けられるのか

今後、もし自分が相続することになったとしても、プラスの財産もマイナスの財産も両方あるため、どうしたらいいものかとためらっているという方も多いと思います。
では、そんな時にプラスの財産だけ相続することは可能なのでしょうか?

答えは「できない」です。

基本的に相続する場合はプラスもマイナスもひっくるめて相続することが原則となっています。逆に相続放棄も同じで、プラスの財産があったとしても,、放棄するのが原則です。
よって、今、明らかにマイナスの財産が多いのであれば、相続放棄を選択することをおすすめします。

●相続財産がプラスとマイナスのどちらが多いかわからない・・・

自分の財産ではないので、きっと相続放棄するべきかわからないケースも多いと思います。
そんなときは「限定承認」という方法を選択するのも一つです。
いきなり「限定承認」と言われても聞きなれない言葉だと思いますが、「限定承認」とは,プラスの財産とマイナスの財産の差が(わからない・はっきりしない)という場合に,「合計してプラスだったら相続します」「マイナスだったらプラスの財産と同じ分だけマイナスの財産を相続して,残りは切り捨てます」という判断をとることが出来る手続きです。

この手続きの場合ですと、財産があいまいな場合や、「マイナスの財産が多いけれども、プラスの財産の中で残したいものがある(実家の不動産など)」といった場合に、一部マイナスの財産を引き受ける必要はありますが、ご自身の負担になるような更なるマイナスの財産は引き受けなくて良いことになります。

●相続放棄と限定承認で気を付けたいこと

良いことずくめの手続きかもしれないと思われましたでしょうか?
ただし、相続の手続きというのはいつでもどんな状況でもできるわけではありません。
財産を取り扱う手続きなので、決まりも多く、皆さんには気を付けていただきたいことがいくつかあります。

①相続放棄と限定承認には手続きが出来る期限が決まっている

相続放棄も限定承認も手続きを取ることが出来る期間は【相続開始(亡くなったことを知
って)から3か月以内】と決まっています。
それまでに手続きを取らないと「単純承認」といって,放っておいても勝手に相続していることになってしまうのです。
もしもマイナスの財産がたくさんあるのに、手続きを取っていなかった場合、かなり厳し
い状況になる可能性も出てきてしまいますね。

②相続放棄や限定承認をする前に相続財産を勝手に処分・売却してしまうと手続きが取れなくなる。

これも気を付けていただきたいのですが、相続放棄や限定承認を選択する前に相続財産
にあたるものを売却してしまったり、借金を代わりに返済してしまったりしてしまうと、
「相続しました」とみなされてしまうことがあります。この場合、相続放棄も限定承認も
選択できなくなってしまうので注意してください。

③限定承認は相続人全員で手続きをしなければならない

限定承認は相続する権利を持っている人全員で手続きをしなければなりません。
もし万が一、1人でも該当する財産を相続している人がいた場合は,限定承認は選択でき
なくなり、相続するか相続放棄するかを選択しなければならなくなります。
逆に、もし相続放棄した人がいても、相続する権利を放棄しているだけなので、それ以外の相続人で手続きをすることが可能です。

相続放棄をしたら自分が受取人になっている死亡保険も放棄が必要?

相続放棄をした場合、もし亡くなられた方がかけている保険金の受取人が自分になっていたら、それも受け取りできなくなってしまうのではないかとご不安になられている方もいらっしゃるかと思います。
しかしながら、この点はご安心ください。
もし、亡くなられた方がかけていた保険の受取人が自分自身や別の方になっている場合はその方の財産として取り扱われるので,相続放棄をした場合でもお受け取りいただくことができます。
この点、一つだけご注意いただきたいことは、「受取人が亡くなられた方ご自身」だった場合です。
この場合は亡くなられた方の財産として取り扱うことになりますので,結果的に相続財産となり、相続放棄をした場合は受け取ることができないものとなります。
さらに、保険会社の約款上、受取人が亡くなられた方以外の場合でも保険金をお受け取りできないケースというのがあるようですので、注意が必要です。

同じ仕組みで考えられる財産に死亡退職金があります。
死亡退職金も、保険金同様に受け取れる権利のある方がどなたになるかで相続放棄をしてもお受け取りが可能な場合があります。
これも亡くなられた方の勤めていた会社側の就業規則が基準となるので、確認は必要となるかと思います。

ここまで御覧いただいて、自分で手続きをしてみようと思われた方もいらっしゃるかと思いますが、いざ手続きをしようと考えると、「相続放棄の手続きってちょっと面倒くさいな」「保険会社や亡くなった方の勤務先へ連絡して資料を集めるのはちょっと緊張するな」などと思われた方も少なからずいらっしゃるかと思います。

そして、マイナスの財産が多くて相続放棄を検討される方以外にも、「親族間の遺産相続争いを避けたい、関わりたくない」といったような、やっかいな人間関係が原因で相続放棄を選択される方もいらっしゃるのではないかと思います。

そういった面倒事も含めて解決するのが弁護士の役割です。
会計事務所と連携しているため、書面作成や相続税などといった手続きに不随する問題もワンストップでご対応させていただくことが可能です。

まずは、ご自身がいずれか相続の手続きをとらねばならない状況なのかのご判断も含め、上原総合法律事務所まで是非ご相談ください。

参考:相続放棄の弁護士費用